「価格でしか選ばれない」と思っていた自動車販売会社の営業部で、本当に起きていたこと
「うちは価格でしか選んでもらえない」。営業部長の方から、こう相談されることがあります。同じ車種、同じようなサービスを扱う競合店が近くにあり、お客様は見積りを比べて一番安いところに決める。営業担当も「価格以外に言えることがない」と思い込み、最後は値下げでしか決着をつけられない。この状態が続くと、現場は疲弊し、利益も削られていきます。
ここで多くの会社がやってしまうのが、「価格競争が激しい業界だから仕方がない」と結論づけることです。しかし実際に営業の現場を見てみると、価格でしか選ばれない原因は、競合との商品力の差ではなく、価格以外の価値をお客様に伝える「型」が営業部の中に存在していないことがほとんどです。これに気づかないまま値下げを続けると、差別化はますます難しくなっていきます。
「価格でしか戦えない」と言われていた営業部の状況
ある自動車販売会社様の例です。同車種を扱う競合店との差別化ができておらず、営業担当者からは「競争が激しく、価格訴求しかできていません」という声が上がっていました。店舗ごとに接客のやり方や雰囲気にばらつきがあり、企業として統一された接客ができていないことも課題でした。接客マナーにもばらつきがあり、誤ったマナーがそのまま現場に残っている店舗もありました。店長の意見が強く、上層部が目指す方向性が現場まで届いていないという事情も重なっていました。
経営層は「車そのものの性能や価格では、競合と大きな差がつけられない」と考えており、価格以外の訴求軸を探すよりも、価格交渉のスキルを磨くほうに力を入れていました。しかし、価格交渉がうまくなるほど、お客様の中には「ここは交渉すれば下がる店」という印象が残り、ますます価格でしか評価されない関係になっていきました。
なぜ価格訴求だけになってしまうのか
価格以外で選ばれる理由がないと感じている営業部に共通しているのは、商品の説明はできても、「この担当者・この店で買う理由」をお客様に伝えられていないという点です。お客様が最終的に見るのは車の性能だけではなく、購入までの対応や、この先も相談できる相手かどうかという安心感です。ところが、店舗ごとに接客のやり方がバラバラで、組織として「どう信頼をつくり、どう価値を伝えるか」が共有されていないと、営業担当は結局いちばん説明しやすい「価格」の話に落ち着いてしまいます。
さらに、店長の意見が強く上層部の方針が現場に反映されづらい組織では、接客の基準がお店や担当者の裁量に任されたままになります。基準がないまま現場に委ねられると、できる担当者とできない担当者の差が広がるだけでなく、組織全体としては「価格以外の強みを言語化できない」状態が固定化されてしまいます。価格訴求しかできないのは、営業担当の力不足ではなく、価格以外の価値を伝える型を組織として持てていないことが原因です。
もう一つ見落とされがちなのが、「価格以外の強みはある」けれど、それが営業担当の言葉として出てこない、というケースです。実際に話を聞くと、保証やアフターサービス、担当者ごとの対応力など、価格以外で選ばれる理由を持っている会社は少なくありません。問題は、その強みが社内の資料やパンフレットには書かれていても、商談の場で自然に話せる「型」になっていないことです。強みを知っていることと、商談の中で使えることの間には距離があり、そこを埋めない限り、現場は結局話しやすい価格の話に戻ってしまいます。
IDEA VISTAの支援:価格以外の価値を伝える型をつくる
この会社様への支援では、価格交渉のスキルを磨く方向ではなく、「商品・サービスの専門性」と「営業が届ける理解と納得」を掛け合わせて、お客様が感じる企業価値をどう設計するかから見直しました。初回接触・初回商談でどう信頼をつくるか、お客様の課題をどう深掘りしてニーズを言語化するか、競合との違いと導入価値をどう伝えるか、提案をどう次につなげるかという流れを一つの型として整理し、店舗ごとのばらつきに任せず、組織として共有できる形にしていきました。
接客マナーについても、感覚やそれぞれの店舗の慣習に委ねるのではなく、統一した基準をつくり、上層部の意向が現場の行動として落ちる仕組みを整えました。型を伝えるだけでなく、実際の商談を想定したロールプレイで言葉として練習し、現場で使えるところまで伴走したことで、価格以外の価値をお客様に伝えられる担当者が増えていきました。
このとき大切にしたのは、価格以外の強みを無理に新しく作り出すのではなく、すでにその会社が持っている強みを、お客様の課題や期待に結びつけて伝え直すことでした。同じ保証内容でも、「保証がついています」という説明と、「お客様が一番不安に思っているこの点について、こう対応します」という伝え方では、お客様に残る印象が変わります。店舗によって対応がバラバラだったこの伝え方を、経営が目指す姿・顧客の期待・現場の行動という3つの視点から一つずつ整理し、どの店舗の担当者でも使える言葉にしていきました。
結果として、エリアでもっとも選ばれる店舗となるほどの売上実績を上げ、お客様満足度も向上しました。価格交渉に頼らずに選ばれる関係がつくれるようになったことで、現場の疲弊も和らいでいます。
自社が「価格訴求」に陥っていないか確かめる3つの視点
営業部長・人材開発の立場から、自社の営業が価格訴求に偏っていないかを点検する際は、次の3つを確かめてみてください。
- 営業担当に「価格以外で、お客様はなぜ自分を選ぶのか」を聞いて、具体的な答えが返ってくるか
- 店舗や担当者ごとに接客のやり方がバラバラで、組織として共有された「信頼をつくる型」が無いまま、個人の裁量に任されていないか
- 上層部が目指す方向性が、現場の接客やマナーの基準まで具体的に落ちているか。方針が「言葉だけ」で止まっていないか
これらは価格競争の激しさとは別の問題です。業界や商品の性質を理由にする前に、価格以外の価値を伝える型が組織にあるかどうかを、一度確かめる価値があります。
まとめ
「価格でしか選ばれない」のは、業界の競争環境のせいではなく、価格以外の価値をお客様に伝える型が組織に無いことが原因であるケースが多くあります。商品の専門性を、営業がどう理解と納得に変えてお客様へ届けているか。現状の診断から、ご一緒できます。
現場の課題は、お話を伺うところから整理できます。
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